養育費の強制執行は法改正でどう変わった?2020年民事執行法改正の全体像と未払い回収の実務手順
「離婚時に取り決めた養育費が、ある月から振り込まれなくなった」「元配偶者の連絡先も勤務先も分からず、回収を諦めかけている」。
こうしたご相談は、株式会社MRにも数多く寄せられます。
実は、2020年4月1日に施行された改正民事執行法によって、養育費の強制執行は大きく前進しました。
これまで泣き寝入りせざるを得なかったケースでも、回収の道筋が広がっています。
本記事では、法改正で何が変わったのか、強制執行の具体的な流れ、そして手続きを成功させるための事前準備を、探偵歴20年・相談件数30万件超の知見をもとに解説します。
この記事でわかること
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2020年改正民事執行法で養育費の強制執行に追加された3つの新制度 -
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財産開示手続きと第三者からの情報取得手続きの使い分け -
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公正証書がない場合の対応と、申立前に整えるべき情報
なぜ今「養育費の強制執行 法改正」が注目されているのか
厚生労働省『令和3年度 全国ひとり親世帯等調査』によれば、母子世帯のうち養育費を現在も受給している割合は28.1%にとどまります。取り決め時に書面を交わしていても、3年・5年と経過するうちに支払いが滞る事例は珍しくありません。
一般的には、養育費の未払いは「相手が払わないなら諦めるしかない」と捉えられがちでした。しかし2020年4月1日に施行された改正民事執行法によって、この常識は大きく変わっています。
旧制度では、強制執行(給与や預金の差し押さえ)を行うには、債権者側が勤務先や預金口座を自力で特定する必要がありました。元配偶者と疎遠になっているケースでは、この特定作業が事実上不可能で、せっかく公正証書や調停調書があっても紙のまま終わってしまうことが多発していたのです。
改正民事執行法は、まさにこの「情報がないと差し押さえできない問題」に正面から手を入れた改正です。
法務省が公表している改正趣旨にも、「債権者が債務者の財産に関する情報を取得できないために、強制執行が功を奏しない事案が少なくない状況にあった」と明記されています。養育費は子どもの生活を支える性質を持つため、ひとり親家庭の困窮を防ぐ社会政策的観点からも、制度改正の必要性が長年指摘されてきました。今回の改正は、その積年の課題に応える内容となっています。
ご相談に来られる方の多くは、「強制執行という言葉は聞いたことがあるけれど、何ができて何ができないかは分からない」という状態です。まずは改正の全体像を理解することが、ご自身のケースで何を選択すべきかを判断する出発点になります。

改正民事執行法で追加された3つの新制度
改正によって新設・強化された制度のうち、養育費の回収に直結するのは以下の3点です。
財産開示手続きの罰則強化(民事執行法197条以下)
財産開示手続きとは、債務者(養育費を払わない側)を裁判所に呼び出し、自分の財産(預貯金・不動産・給与など)を宣誓のうえ開示させる制度です。
旧制度では、出頭しなかったり虚偽を述べたりしても30万円以下の過料にとどまっており、抑止力として機能していませんでした。改正後は6か月以下の懲役または50万円以下の罰金という刑事罰に格上げされ、前科がつくリスクが生じます。これにより、出頭率と開示の真実性が大きく改善しました。
また、改正前は強制執行認諾文言付き公正証書では財産開示を申し立てられませんでしたが、改正後は公正証書による申立ても可能になりました。これは養育費案件にとって極めて大きな前進です。
第三者からの情報取得手続(民事執行法205条〜207条)
最大の目玉が、この第三者からの情報取得手続きです。裁判所を介して以下の3種類の情報を取得できます。
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市町村・日本年金機構等から:給与(勤務先)情報の取得(民事執行法206条) -
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登記所から:不動産情報の取得(民事執行法205条) -
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金融機関から:預貯金・上場株式等の情報の取得(民事執行法207条)
特に養育費案件で実用度が高いのは、勤務先情報の取得です。元配偶者の勤務先さえ特定できれば、給与の差し押さえに進めます。養育費債権は民事執行法152条3項により、給与の手取り額の2分の1まで差し押さえ可能です(一般の債権は4分の1まで)。
養育費に特化した差し押さえ範囲の拡大
養育費は子どもの生活を直接支える性質を持つことから、一般の金銭債権よりも強く保護されています。
| 債権の種類 | 給与差し押さえの範囲 |
|---|---|
| 一般の金銭債権 | 手取り額の4分の1まで |
| 養育費・婚姻費用 | 手取り額の2分の1まで |
加えて、養育費の場合は将来分の差し押さえも認められます(民事執行法151条の2)。通常は支払い期日が到来した分しか差し押さえできませんが、養育費は将来発生する分も一括で差し押さえ可能なため、毎月申立てを繰り返す必要がありません。

強制執行を実行するための前提:債務名義の確保
強制執行は、債務名義と呼ばれる公的書面がなければ申し立てられません。養育費の取り決めにおいて代表的な債務名義は以下の3つです。
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強制執行認諾文言付き公正証書:公証役場で作成された養育費の取り決め書面で、「直ちに強制執行に服する旨」の文言が入っているもの -
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家庭裁判所の調停調書・審判書:離婚調停や養育費調停で成立した内容を裁判所が記載したもの -
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判決書:訴訟で勝訴して得た判決
口約束やLINEのやり取りだけでは強制執行はできません。離婚時に養育費の取り決めを口約束で済ませてしまった場合は、まず公正証書化または家庭裁判所への調停申立てが最初の一歩になります。
公正証書がない場合の現実的な3ルート
離婚時に書面を作成しなかった場合の選択肢は、主に以下の3つです。
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養育費請求調停を家庭裁判所に申し立てる: 費用は収入印紙1,200円と連絡用郵便切手程度です。数か月で調停調書が得られれば債務名義になります。 -
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元配偶者と話し合って公正証書を作り直す: 相手の協力が前提となります。協力が得られない場合は1の調停へ進みます。 -
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元配偶者を相手取って養育費請求の裁判(訴訟)を起こす: 時間と費用がかかりますが、相手が調停に応じない場合の手段となります。
一般的には、まず調停を試みるのが現実的です。
第三者からの情報取得手続きの実務
債務名義を確保したら、次は相手の財産・勤務先を特定するフェーズです。改正で新設された第三者からの情報取得手続きの実務を見ていきます。
勤務先情報の取得
養育費債権者であれば、市町村や日本年金機構に対して、債務者の勤務先情報を照会できます。これにより、別居後に転職して連絡が取れなくなった元配偶者の勤務先も、裁判所経由で判明する可能性があります。
ただし、申立ての前提として先に財産開示手続きを実施しておく必要があります(民事執行法206条1項)。財産開示の期日に債務者が出頭しなかった、または出頭しても十分な開示をしなかった場合に、勤務先照会へ進める仕組みです。
預貯金情報の取得
金融機関に対しても、債務者の預貯金口座の有無や残高を照会できます。こちらは財産開示手続きを経由せずに直接申し立てることが可能です。実務上は、メガバンクや地方銀行、ゆうちょ銀行など、複数の金融機関に同時に照会を行うのが一般的です。 なお、預貯金照会で残高が不足している、あるいは口座がないという結果が出た場合でも、それは「その金融機関には資産がない」という公的な確認になります。不動産照会や勤務先照会など、次の対応を判断するための材料として活用できます。
申立てに必要な情報
第三者からの情報取得手続きを申し立てるには、債務者の氏名・住所・生年月日が正確に判明している必要があります。離婚後に相手が転居しており、住民票上の住所が分からないといったケースでは、まず住民票の追跡(前住所からの追跡調査)を行う必要があります。 申立書のフォーマットや郵券、手数料の詳細は最高裁判所のウェブサイトに掲載されています。実費の目安は、1件あたり1,000円程度の収入印紙と数千円の郵券、登記情報1件あたり数百円程度です。

申立前の情報収集が回収成否を分ける
「強制執行の手続きをすればすべて解決する」と考えがちですが、実際には申立て前の情報収集が回収の成否を左右します。 第三者からの情報取得手続きで勤務先を照会するにも、相手の現住所、氏名、生年月日が正確に分からなければ申し立て自体ができません。相手が複数回転居している場合、住民票の追跡調査だけで数か月を要することもあります。 また、金融機関への預貯金照会も、相手が口座を分散している場合、主要な取引銀行を絞り込めなければ空振りに終わる可能性があります。申立て前に相手の生活実態(勤務先、取引銀行、不動産の有無など)を把握しておくことが、手続きを有効に活かすことにつながります。
私たち株式会社MRでは、所在調査・勤務先調査を法令の範囲内で実施し、その結果をもとに弁護士事務所と連携して強制執行の実務に進めるサポートを行っています。証拠は撮った後が大切、という言葉は、強制執行にもそのまま当てはまります。情報をつかんだ後、それをどう法的手続きにつなげるかが重要なのです。
なお、相手のスマートフォンを無断で見ることや、自身での尾行は、プライバシーの侵害や思わぬトラブルに発展する恐れがあります。感情的に問い詰めたり無理な自力調査を行ったりせず、適切な手順で進めることが大切です。
改正前後で何が決定的に変わったのか:実務目線の3つの分岐点
ここまで個別の制度を見てきましたが、現場の感覚として「改正前は不可能だったが改正後は道が拓けた」と言える代表的な3シーンを整理します。
「相手が転職して連絡が取れない」ケース
旧制度では、別居後に元配偶者が転職した場合、転職先を債権者側で突き止められなければ給与の差し押さえはできませんでした。住民票や戸籍の附票を取り寄せても、勤務先までは記載されないためです。実務上、興信所などに勤務先調査を依頼して独自に特定するしかなく、調査費用がかさむ上に、申立て段階で情報の誤りが判明するリスクもありました。 改正後は、財産開示手続きで債務者が不出頭だった場合や開示が不十分だった場合に、市町村や日本年金機構に対して勤務先情報の取得を裁判所経由で申し立てられるようになりました。公的記録に基づく情報のため、特定にいたる確実性が向上しています。
「公正証書はあるが、相手の預金口座が分からない」ケース
旧制度では、預金差し押さえのために金融機関名と支店名の特定が必要でした。「〇〇銀行」だけでなく「〇〇銀行△△支店」まで指定できなければ、申立てが受理されなかったのです。元配偶者が利用している支店名が分からない場合、複数の支店に目星をつけて申し立てるしかなく、費用と労力の負担が大きい状態でした。 改正後の金融機関照会では、銀行の本店一括での照会が可能になり、支店名まで特定する必要がなくなりました。実務上はメガバンクや地方銀行、ゆうちょ銀行などを組み合わせて一斉照会を行うことが多く、口座の所在確認における効率が向上しています。
「公正証書だけで財産開示を申し立てたい」ケース
これも旧制度では認められていませんでした。財産開示は確定判決・調停調書・審判書がなければ申し立てられず、強制執行認諾文言付き公正証書では利用できなかったためです。離婚時に公正証書を作成していても財産開示には使えないという課題がありました。 改正後は、公正証書による財産開示の申立てが可能になりました。離婚時に公正証書を作成しておけば、未払いが発生した際に財産開示や第三者照会といった手続きへ進めるようになり、公正証書を作成しておく重要性が高まっています。
弁護士相談と探偵調査の役割分担
養育費の強制執行を成功させるには、法的手続きと事前情報収集の両輪が必要です。役割を整理します。
| 場面 | 主な担い手 | 内容 |
|---|---|---|
| 債務名義の作成(公正証書化・調停申立て・訴訟) | 弁護士 | 法的手続きの代理 |
| 相手の所在確認・住民票追跡 | 弁護士 / 行政書士 | 職務上請求での取り寄せ |
| 勤務先や取引銀行の手がかり収集 | 探偵事務所 | 法令の範囲内での実態調査 |
| 強制執行の申立て・差し押さえ実行 | 弁護士 | 裁判所への代理申立て |
弁護士は法的手続きの専門家ですが、相手の生活実態を独自に調査する手段は限られています。一方、探偵事務所は実態調査の専門家ですが、法的手続きの代理は行えません。双方の強みを適切に組み合わせることが、確実な差し押さえにつながります。 「まずは弁護士に相談する」のが一般的ですが、相手の所在や勤務先が不明な段階では、先に情報収集を進めておくことで、その後の法的手続きをスムーズに進められるケースもあります。株式会社MRでは、提携弁護士との連携体制を整えており、調査から法的手続きへの移行までをサポートしています。
よくあるご質問
Q1. 公正証書も調停調書もない場合、いきなり強制執行はできますか?
できません。まず家庭裁判所への養育費請求調停の申立てから始める必要があります。調停で合意に至れば調停調書が、合意に至らず審判に移行した場合は審判書が、それぞれ債務名義になります。
Q2. 相手が自営業の場合、給与差し押さえはできませんか?
雇用関係に基づく給与がない自営業者の場合、差し押さえの対象は預貯金、売掛金、不動産などになります。第三者からの情報取得手続きにおいて、金融機関への照会を活用するのが現実的です。
Q3. 強制執行の費用はどのくらいかかりますか?
裁判所への申立手数料は1件あたり数千円から1万円程度ですが、弁護士に依頼する場合は別途報酬が発生します。一般的には着手金が10万〜30万円程度、成功報酬は回収額の10〜20%程度が目安です。
Q4. 一度差し押さえれば、ずっと回収し続けてくれるのですか?
養育費の差し押さえは、将来の未払い分も含めて認められています(民事執行法151条の2)。差し押さえ命令が有効である限り、毎月の給与から自動的に天引きされて支払われます。ただし、相手が転職した場合は、新しい勤務先に対して改めて差し押さえの申立てを行う必要があります。
まとめ:法改正を活かすには事前の情報収集が重要
2020年の改正民事執行法は、養育費の未払いに苦しむ方にとって制度的な後押しとなります。財産開示の罰則強化、第三者からの情報取得手続きの新設、養育費に特化した差し押さえ範囲の拡大など、いずれも実効性を高める内容です。
しかし、これらの制度を十分に使いこなすには事前準備が欠かせません。債務名義の有無、相手の現住所・氏名・生年月日が正確に分かっているか、勤務先や取引銀行の手がかりがあるかといった点が揃うことで、改正法の仕組みを有効に活用できます。
「相手の居場所が分からない」「勤務先の見当がつかない」という段階でお悩みの方は、まず情報を整える段階から専門家にご相談ください。早めの対応が解決への近道となります。
養育費は、子どもが健やかに成長するために支払われるべき大切なお金です。請求や回収を行うことに後ろめたさを感じる必要はありません。制度を使い切るための情報整理と、必要に応じた専門家との連携を進めることで、これまで諦めていた未払い分を回収できる可能性が高まります。
感情的に問い詰めたり、危険を伴う自力調査を行ったりせず、適切な手順で確実な情報を収集しましょう。株式会社MRでは、無料相談を全国14拠点で承っております。ひとりで抱え込まず、まずはお気軽にご相談ください。
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当記事の監修者
- 氏名
- 岡田 真弓
- 経歴
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1968年東京都生まれ
2003年総合探偵社・株式会社MRを設立
2008年MR探偵学校を開校し、学長に就任
2016年一般社団法人日本ライフメンター協会を立ち上げ、代表理事に就任
2017年こころテラス株式会社を設立
- 紹介文
探偵業の現場で培った経験をもとに、「探偵の現場」や「夫を夢中にさせるいい妻の愛されルール」等の書籍を発売。
また、ビジネスリアリティ番組「令和の虎」にも出演し、あらゆるメディアを通じて、調査の実態や夫婦関係の在り方を伝えています。
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